本棚の本 2021.11月
かないくん 作/谷川俊太郎 絵/松本大洋
本のタイトルである「かないくん」が、訪れるであろう、人の「死」についてきっかけをくれる。物語にしてしまうとぼんやりとしてしまう重いテーマですが、この一人の少年の存在が、物語をより現実的・主観的に感じられます。絵本なので、少ない言葉と静かな絵でより一層考えてしまうかもしれません。
「何が始まったのかは分からない。でも終わったのではなく、始まったんだと思った」
本の中では、死を直面した「生きている人」の気持ちがメイン。「死」について、その機会に触れた人が考え始めること。繰り返される「死」と「生」なんだと気づかされます。
また、この絵本は話の内容だけでなく、本自体の装丁にもこだわりの一冊。
表紙、裏表紙、カバーを取ってみると見え方が変わるので、手に取る楽しみも味わうことができます。
人の死に直面すると考えだす、人それぞれの「死生観」。読み終わったあとの、あなたは何を思い、何を考えていますか。
●本の情報 出版社:株式会社ほぼ日 発売年:2014年 ISBN:978-4-86501-107-4
号泣する準備はできていた 著/江國香織
朝から電話で「二人でクリスマスツリーを買う夢を見た」と言う、恋人。旅先で出会ってた彼と、燃えるように愛し合った。その後ほかの女性と関係をもち、いっしょに住んでいた部屋を出て行ったのに、「文乃だけは特別」といって連絡をくれる彼。そんなことされたら、どうしたって彼のことを好きだっていう気持ちを忘れられない。本当は泣きたいくらい辛い。だけど、彼から連絡がきたら泣きたいくらいうれしい。そんな気持ちを隠して、冷静にいつも通り話してしまう複雑な女心。これこそ、“泣く準備ができている”という表現に合った、ひとりの女性の日常の感情を垣間見る物語です。恋をするときはなぜ、こんなわがままで自分勝手な男性に惹かれてしまうのでしょうか。女性目線で帰ってこない恋人を待つ情緒を読み解いてみてください。
●本の情報 出版社:新潮社 発売年:2006年 ISBN:978-4101339221
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 著/村上春樹
最初の一文から、「死」についての言葉が連なっており、何が彼をこうさせたのか?内容が重くて本を閉じてしまおうか…と悩んで読み進めたら沼です。もう抜け出せません。多崎つくるの16年間に起こっていた変化が、ひとつひとつ紐解き始めてしまいます。過去は忘れてしまっていてもどこかに存在していて、辛くてもその過去と向き合うときがいつかくるのだと感じる物語です。多くを語らず、読んだ人の想像をかきたてる内容なため何回も読み返してしまう…そんな癖のある一冊。
●本の情報 出版社:文藝春秋 発売年:2015年 ISBN:978-4167905033