『せ』~丸又商店 出口智康さん~
平坦な道のりでは、きっと味気ない。
普段何気なく買ったり口にしている調味料。
古くから醸造などのものづくりの文化が息づく知多半島には、料理の基本の調味料「さ・し・す ・せ・ そ」が勢揃いします。
温暖な気候や質の良い地下水を生かし、昔ながらの製法で造られた「酒・塩・酢・醤油・味噌」。
知多の自然と共にこれらを育むのは、酸いも甘いも噛み分けて、人生のうま味を知っている職人たち。
バイクを乗り回した学生時代、海外を飛び回った 20 代、思い悩んだ 30 代…。
職人たちの人生も一緒に味わえる、知多半島「さしすせそ」の旅へ出ませんか。
丸又商店 出口智康さん
PLOFILE
・創業文政12年(1829年) 味噌・溜醤油・醸造元 株式会社丸又商店の代表取締役。
・当時はあまり認知されていなかったオーガニック商品の製造を約30年前から開始し、先駆けとして展開。
『正しい仕事をして、正しいことをする。慣れ親しんできた醤油の味で次世代を元気にしたい。』
地元から離れてみて気付いた。醤油は「力の源」だということ。
僕はどちらかというと跡を継ぐことには抵抗していました。この土地で、周りが期待する通りに自分の生き方が決まってしまうのが嫌だったので、小さい時から自分のことを誰も知らない外に行って生きてみたい、外国に行ってみたいと思っていました。
就職は一つの拠点に留まらずに転勤もしてみたかったので、なるべく大きな会社を選びました。程なくしてタイへの転勤が決まり、ようやく外国で仕事をすることができました。
その後、現地で食中毒を起こして入院したことがあって、その時にお腹が恋しくなったのが日本食だったんです。身体が弱ったり、へこたれたときって日本食を食べると元気になるんですよね。その日本食の中心にあるものが醤油で、力の源であるというのがよくわかったんです。それまでは外に行きたいばかりだったのですが、やりたい、やらなきゃいけないことがそこで見えてきて、外国で仕事をするという夢も叶ったので、10年の区切りで帰ってくることにしました。
帰ってきた頃には、海外へのたまりの輸出も既に行っていたのですが、自分は外国に行けなくても、自分が作ったものは外に行く、繋がっているということがとても嬉しかったです。それを使ってくれている人がいるというのも嬉しいし、守っていきたいなと思いましたね。
外国へと運ばれていく丸又商店の溜まり。オーガニックの商品を伝統的な製法で造る意図とは。
うちは30年ほど前から始めた「オーガニックたまり」という商品を今は主にやっています。実はオーガニックの認定をとるのに伝統的な木造の蔵で木桶を使って造る必要はなくて、綺麗な最新鋭の工場で適切に作ればそれもオーガニックなんです。でも全くの無菌状態で作ったものが安心かというと、僕はそうでもないと思っていて、あまりにもきれいなところできれいなものだけ作って、そればかり食べていたら人間は弱くなっていく。色んな菌を取り入れていると、身体が強くなっていくのが分かるんですよね。壁や柱に棲みついた色んな菌が混じり合ってできる味噌や醤油というのは、それはそれで貴重なものであって、ただのオーガニックではなくて、伝統的な製法で醸造するというのはある意味大事な部分じゃないかと思っています。科学的なものを使って作物を育てていると、その影響は土から地下水、海、生き物へと及んでいき、廻りにまわって人間に還ってきます。そういうサイクルではなくて、原料も製法も、自然なものづくりがしたいんです。そういう取り組みが結果的にオーガニックに繋がっています。
自然なものづくりに取り組む上で大事なこと
うちは社訓や家訓も特になくて、何かを引き継いできたというわけじゃないんです。単純なところは人に喜んでもらう仕事がしたい。そこだけです。今まで続いてこれたのは、醤油が昔から日本人にとって必要なものだったということと、それをきちんとつくってきたからですかね。代々の中の一人でも悪いことをしたら、続けてこれなかった。あとは意志のある後継者がいたこと。昔、武豊町に50軒ほどあった蔵も今は6軒しかない。木桶の職人さんもほとんどいない状況で、自分の中で今やっていることはとても大事なことをやっている、それだけの仕事をしているんだろうなという想いがあって。蔵や桶、製法を変えずに守っていくということは、変えていくよりも難しい。時代が流れていくけど大事なところは変わらないように守っていきたいというのは最近強く思っています。
大事なところというのは、きちんと人の倫、義理人情果たしていくというか、簡単なとこで挨拶をする、目上の人を敬うとかですね。昔から何となく日本人が大切にしてきた心遣いだとか、そういうのが大事なんじゃないかな。正しいことをして正しい仕事をする。そこが疎かだといい加減になっちゃいますよね。
価値のある味とは自分が慣れ親しんできた味
東海地区のこの辺りの味というのはやっぱり溜まりの味が中心。今は全国各地を色んな人が出入りして、様々な食文化が混ざり合っていきますが、やっぱり地域ごとの味付けというのがあって、東海地区の溜まりを中心とした食文化、食の味というのは遺していかないといけない。自分たちが育っていく過程で慣れ親しんだ味というのは価値があると思っていて、これから若い世代が国内外へ出て行ったときに、力の源である醤油や育った土地の食の味で元気になってもらいたいですね。
読者へのメッセージ
ご家庭で料理をしてください。皆さん生活が忙しくなってきて、出来合いのものを買ったり、外食で済ませたり、そうではなくて、お家で料理をしてもらいたい。家族間でも生活スタイルがバラバラだったりすることもあるだろうけど、一緒に温かいご飯が食べれるような生活が送れる環境がつくれるといいですね。休みは休んで、ご飯を食べる時間にご飯を食べて、寝る時間に寝てください。
SHOP INFORMATION
店名
丸又商店
住所
〒470-2544 愛知県知多郡武豊町里中152
電話
0569-73-0006
営業時間
9:00-17:00
休業日
隔週土曜・日・祝