美濃和紙特集

美濃市観光協会「番屋」 事務局長 池村 周二さん

美濃市観光協会の事務局長。全国的にも有名な美濃和紙あかりアート展の主催者。

全国的にも有名な美濃和紙あかりアート展の主催者

Episode1

うだつのあがる町並み、美濃市。

岐阜県美濃市の重要伝統的建造物群保存地区。“うだつ”とは、民家との境にある防火壁のことです。比較的裕福な家庭にしか上げることが出来なかったうだつは江戸時代、商人たちの富の象徴でした。そこから出世できない人や甲斐性が無い人を「うだつが上がらない」と言う様になりました。美濃市では、うだつの上がる町並みと美濃和紙のあかりが一度に楽しめる“美濃和紙あかりアート展”が毎年10月に行われています。

 
 町に入ると美濃市のイメージキャラクター“うだつくん”が出迎えてくれますが、美濃市観光協会には町1番の盛り上げ隊長がいます。池村周二さんは誰からも愛される美濃市のお父さん的な存在です。

今年のテーマは「全力笑顔」。家にいるよりお客さんと話していた方が楽しい。
「ここの仕事は49%大変、51%が楽しい。つまり、楽しいんですよ!」
毎年いくつものイベントを一手に引き受ける美濃市観光協会。10月に行われる“美濃和紙あかりアート展”が近づくと、観光協会は特に大忙しになります。
「仕事が忙しくて訳が分からん!その方が燃えますね~」。
静かで落ち着いた雰囲気が漂う“うだつの上がる町並み”。
まるで美濃市の太陽、池村さんの笑顔にどんどん引き込まれました。


 中学生の時に読んだ『カモメのジョナサン』が人生を変えました。
「これが私の生き方!」。
群れを飛び出して自由に羽ばたく物語の主人公、ジョナサンのような生き方に憧れました。
「レール敷かれた人生もいいけど、何もないジャングルを進んでいた方が楽しい!」
自称ニックネームは、ジョナサンから取って“ジョン”。
他にもあだ名をいくつも持っていて、誰からも親しまれています。
「黄色のジャンパーを着て町を案内していたら、子供たちに“ピカチュウのおじさん”と言われた事がありますよ」。
楽しそうに笑う子供たちに囲まれる姿が浮かびます。

国内以外でも海外からの観光客も多く、今は英語・中国語・韓国語・フランス語・イタリア語を覚えて町を案内することが目標。
学生の頃から英会話が好きで、アマチュア無線を使って海外の人と交信をしていました。
「友人に“英語の成績はいまいちだけど、発音だけは良いな”と褒められたことがありますよ」。と苦笑いをしていました。
 観光客から教えてもらい、覚えて使ってみる。伝わると嬉しいし、相手も喜んでくれる。月に何度か観光協会にて、おもてなし英会話の教室を開いて勉強しています。観光はただスポットを回るつまり“行程をこなす”だけでは面白くない。
「お客さんには“あそこになんか面白い人がいたなぁ”と記憶に残って欲しいですね」。
今では、年に何度も美濃市を訪れてくれる海外のファンも増えています。
「お客さんには特別記憶に残るような美濃市観光になって欲しいという思いで町を案内しています」。

Episode2

観光は“人”。それしかない!

美濃市にはうだつが上がる町並みがあり、他の地域から観光資源があって羨ましいと言われます。
「それは違うんです。どんなに素敵な場所でも人の魅力には勝てません。私は新しいお客さんが来たら、“どれだけその人を楽しませたろうかな!”と思います」。
知り尽くした町並みを観光客と回ります。何より仕事を楽しんでいるからこそ、美濃市の魅力が存分に伝わる。

自分がして欲しいと思ったことを相手にしてあげる。メールで問い合わせしてきた海外の観光客には空港から美濃市までの行き方、電車の時間まで詳しく教えます。
観光客は教えた通りの電車に乗って美濃市を訪れてくれる。
「私だったらそこまでしてくれたら絶対行かなきゃと思います」。
「時間と手間が掛かっても、私だったら全部教えてくれた方が嬉しいから。」「何事も“HardよりHeart”、形があるものより心が大事なんです」。
 観光客のハートを鷲掴みにしている理由が分かります。

美濃和紙あかりアート展は、伝統産業である“美濃和紙”の再生、“うだつの上がる町並み”の活性化・ブランド化を目標に1994年から行われている。美濃和紙を使用したあかりのオブジェを一般公募で募集し、屋外展示をする。審査も行われ、優秀作品も選ばれる。あかりアートの他にイベントも同時に開催され、毎年多くの人が押し寄せる。

Episode3

21歳で日本一周自転車旅。

小・中・高の卒業文集に“夢は自転車で日本一周”と書きました。友人に“出来るはずが無い”と笑われましたが、先生に後押しされ大学を休んで挑んだ4ヶ月間の日本一周。
道中は苦しいこと、辛いことがたくさんありましたが、力を貸してくれたのが全国の知らない人たち。
その人に恩返しが出来なかったから、その恩返しのつもりで他の人に親切にしてあげる。“ペイ・フォワード”の精神です。簡単なことのようで難しい言葉。
「私は旅の間にもらったたくさんの恩を、今観光客と美濃市に恩返ししています」。
まだ少しも恩返しできていないと言いながら、旅を懐かしんでいました。

作品1つ1つに心がこもる、あかりアート展。
 5年に1度、壊れた作品の供養祭が行われます。
「作品にはその人の心がこもっているから、壊れて処分しなくてはならないときは涙が出るほど悲しくなります」。
町を照らしてくれるのは、美濃和紙と制作者が作り上げた魂がこもったあかりたち。イベント当日、急に雨が降ると、1つ1つのあかりに覆いを被せて濡れないようにします。
「99%は周りの人達。私の力は1%以下です。たくさんの人に支えられてあかりアート展は完成します」。
幻想的なあかりアート展は、たくさんの『愛』が詰まっているからこそ、美しいんです。


 とりあえず実行してみる。そこから最大限努力して良い方向に軌道修正すればいい。
「石橋は叩く前に走って渡れ!橋が落ちたら這い上がれ」。
どんな困難も、楽しい方へ変えてしまう。池村さんの自由でひたむきな言葉のどれもが、心にグサッと刺さりました。

Episode4

あとがき

 古い町並みが残る美濃市。狭い道で道に迷っていると、声を掛けてくれたのは近所のお母さんでした。観光協会「番屋」の扉を開けると、“よく来たね”と迎えてくれる職員さん。美濃市は“うだつの上がる町並み”だけが魅力では無い。それは町を歩いてみてすぐ分かりました。黄色いジャンパーを着て迎えてくれた池村さんはまるで太陽のように明るくて、何事にも楽しむ姿勢がかっこいい。
美濃和紙あかりアート展の来場者と周りの人への感謝。明かり作品に込められた想いに真摯に向き合う池村さんがいたからこそ、実行委員のメンバーと共に雨にも負けずに毎年美しいあかりが町中を照らすのだと気づきました。
 眩しい笑顔と、周りの人への愛。石橋を疾走する様子が目に浮かびます。


SHOP INFORMATION

店名美濃市観光協会「番屋」
住所〒501-3726 岐阜県美濃市加治屋町1959-1
電話0575-35-3660
営業時間9:00~17:00(冬期は16:00)
休業日年末年始

この記事をShareする

関連記事

TOPへ