オデカケのジレンマ　第一回　～Heliodor～

人は誰しも、自分の体験を人に共有したい欲求がある。

同時に、本当は他の人に教えたくない、行きつけのお店も存在する。

オデカケのジレンマでは、東三河のオデカケの楽しさをお伝えする本サイトでも、本当は内緒にしておきたいようなお店を紹介します。

豊川市代田町の小さな美容院

豊川の文化会館からクルマで5分。

代田町にある古着屋｢ちゃくちゃくちゃく｣さんのお隣にある、小さいけれどオシャレな美容院。

｢Heliodor(ヘリオドール)｣です。

2023年の11月に5周年を迎える、比較的新しい美容院。

店主の藤原さんが、一人で切り盛りしています。

そのため、座席も2つだけ。

筆者がクルマの営業をしていた時代、ご主人がリコールでご来店され、その際にオープンしたばかりのお店を紹介してもらった過去があります。

以降ずっとお世話になっている、隠れた名店です。

カット価格に込められた想い

Heliodorの一番の特徴。

カット価格が、3,300円というお値打ち価格なこと。

もちろん、カットに加えて、シャンプー、簡単なヘアセットも込み。

1,000円カットのような店舗を除けば、豊橋・豊川で同じ金額でやってもらえるところは中々ないのではないか。

｢安いよね。豊橋・豊川でも4～5,000円するところだってざらにあるし。｣

店主の藤原さんは、カラッとした話し方で、こだわりを語ってくれました。

｢あたしがここを開業する時、開業に関わった業者にカットの値段を大反対されたの。

『額に見合ってない。やればやるだけ損する』って。

でも、それを押し切って開業した。

最初は税別2,800円。消費税が10％に上がった時に、200円だけ値上げして、それっきり。

キツくなるまでは、この価格で頑張る。｣

実際、お客様からは、｢技術を安売りする必要はない。｣と値上げを推奨されることもあるようだ。

そんな声を頂きながらも、藤原さんがカットの価格にこだわる理由は、来店してもらう頻度にある。

｢髪を切って、そのラインが崩れてくるのが大体2ヶ月ぐらいだと思ってる。

人間2ヶ月生きてれば、何か話すことだって出て来るじゃない。

元気だった？　って聞きたいじゃんか。

でも、値上げすると、来店する頻度が伸びていくの。

人ってお金が無くなると、美容みたいなものから出費を削ってく。

食べ物は無いと生きていけないけど、髪が長くたって、誰に迷惑掛けるでもないからね。｣

Heliodorのカット価格は安い。

けれども、安いからといってお客様からチープに見られない理由が、このこだわりにあるのかもしれません。

｢入りづらい｣ハードルを飛び越えて

駅から離れた場所だからなのか、お店の特性なのか。

どうもHeliodorには、お客様の年齢層の偏り・ひいては場所の偏りもないそうで。

｢30代から80代まで、いろんな年代の方がいるよ。

独立する前に働いていた、美容院のお客さんが多いかも。

付いて来てくれた人は、豊橋や、湖西からも来てくれる方もいる。

場所さえ分かっていれば、来てくれる人はいるんだなって思った。

もちろん、歩いてくるおばあちゃんもいるよ。｣

Heliodorは、前述した通り駅から遠く、直接には道路に面していません。

そんな中、開業してわずか一年でコロナ禍になった今でも、変わらずお店が続いている背景にはこういった藤原さんに付いてくる人が多いからかもしれない。

一方で、その立地が得をしている面も。

Heliodorの入り口は、先述したちゃくちゃくちゃくさんの入り口と向かい合っており、お店を出た足で、そのまま飛び込みで来る方もいらっしゃるそう。

｢服を見てる時に、お子さんが寝ちゃったみたいで。

起きるまでクルマで待っている間に、うちのお店を見かけて。

そんな、たまたまの縁だったのに、気づけばお子さんも旦那さんも任せてもらえるようになっちゃった。｣

インドネシアやフィリピンの方などが通りがかりに来店して、本人だけでなくその友達も……と波及していくことも。

一般的に、新規の方は入りづらい印象がある美容院。

古着屋さんの隣にあるということが、お店の来店を下げているハードルなのかもしれませんね。

好きでいてくれる“縁”

どうして、変わらずにお店に来てくれるのか。

理由を聞いてみると、藤原さんらしい答えが返ってきました。

｢なんでだろうね。

お客さんが、あたしのことを好きだと思ってくれているから、かな。｣

日本でこれを言える美容師が何人いるんだろう。

藤原さんは理由も続けて答えます。

｢この店はあたし一人しかいないから、居心地とか、相性ってすごく大事だと思っている。

人がたくさんいる大きな店舗みたいに、この人は嫌いだけどこの人は好き、みたいなことがないからね。

通ってくれているということは、ちゃんと好きでいてくれるからなんだろうなって。｣

中には、こんなコメントをいただくことも。

｢一回、常連の子に言われたの。

『技術じゃなくて、藤原さんと話すのにお金を掛けてる。』って。

あたしは美容師として、髪を切ることにプライドがあるから、最初はショックだった。

自分の技術に価値がないような気がして。

でも、娘に

『お母さんのためにお金を掛けてくれてるって、最高のことじゃん』。

って言われたんだよね。そんな考え方もあるんだ、って。｣

カット1回3,300円。本来であれば、回転率のため、出来るだけ早く仕上るところですが、藤原さんはカットでも1時間しっかり時間を使います。

初めてのお客様であれば、こだわりや髪質を確かめながら。

慣れ親しんだお客様であれば、日常の変化を聞きながら。

藤原さんとお客様との2人の中で、心地よい時間がゆっくり流れていくのです。

今後の展望は

小学5年生からの夢だったという、美容師開業を果たした藤原さん。

開業のための出発は、40歳からだったそう。

豊橋の美容院で10年、修行をしたとのことです。

｢学校卒業から、かれこれ20年は美容師をしているけど、女の人は、結婚とか、子育てでブランクがあるから。

やっとのことで出発しようとしたら、昔とは時代が違いすぎて。

50歳までにお店を出したくて、やっと夢がかなったってところ。」

そうして開業されたHeliodor。

やっと築いた自分のお店を守りながら、この先もずっと美容師を続けていきたいと話してくれました。

｢この間、80歳まで続けていた美容師さんが、辞めて挨拶に来たの。

この仕事に定年はないから、元気さえあれば続けていけるんだよね。

その美容師さん、『美容師、いいですよ。』なんて言っちゃって。

あたしも続けていきたいなって。｣

最後に、藤原さんのやりがいと、今後の展望を話してくれました。

｢うちのお客さんはみんな、最後に『ありがとう。』と言ってくれる。

あたしにとって最高の時間。

あたしの勧めでシャンプーが変わって、ちょっとモチベーションが上がるってネクタイも新調してみて。

そうやって、出会うなかで価値観がプラスに変わっていく“縁”が、あたしにとって大きいことだなって思う。

お店については、もう若くもないから、2号店を出したり、拡大したりって気はないんだけど。

悩んでいる人の力にはなりたいなって思うね。

最近は細胞のケアに力を入れてる。

年齢的に、薄毛に悩むお客さんも多くて。

エクソソームっていう細胞のメッセンジャーの働きで、頭皮細胞の活性化を進めてるの。

まだまだこの地域だと少ないけれど、自分が試していいなと思うものを伝えたいじゃない。

選ぶのはお客様だけど、背中は押していきたいから、最先端のことも勉強してるんだ。」

お店を大きくする、他店舗を作る。

そんなつもりはなく現状維持だ、とお話していた藤原さん。

しかしながら、自分のお店を訪れるお客様の課題には最先端を勉強してでも向き合いたい。

そんな藤原さんの想いが、今日までのHeliodorを支えた“縁”に繋がっているのかもしれません。

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SHOP INFORMATION

店名	Heliodor(ヘリオドール)
住所	愛知県豊川市代田町１丁目71−1
電話番号	0533-81-8045
営業時間	9時～18時
定休日	月曜日

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